『文章の書き方』:辰濃和男著
実家の本棚にありました。読み始めると面白い。一気に読んでしまいました。朝日新聞のコラム「天声人語」の元筆者の「文章の書き方」です。新聞のコラムを書いてた人の文章論は、丁寧でわかりやすく、それに引用出典が広く巧みです。一章の「広い円」だけで引用出典は「言池波正太郎「食卓のつぶやき」・宇野千代「阿吽の呼吸」・吉行淳之介「文章の奥にあるもの」・向田邦子「眠る杯」・井上ひさし「きらめく星座」・木下順二「子午線の祀り」・福沢諭吉「福翁自伝」です。
読み終えると、良い講義を聞き終えたときのような気持ちで、ニンマリしてします。文章の書き方ですが、読み方にもつながる一冊です。
目次は「素材の発見」、「文章の基本」、「表現の工夫」に別れています。短文は私の抜き出し書きです。
1.(広場無欲感)の巻(素材の発見)
- 広い円ー書くための準備は
ものを書くときは準備が必要です。はじめから思い切って広い円を描いて準備すれば、内容の深いものが生まれます。- 現場ー見て、見て、見る
現場を踏めば、異質のものの出あえます。異質のものに出あい、驚く。その驚きが深ければふかいほど、文章は力を持ちます。- 無心ー先入観の恐ろしさ
私たちは先入観から自由になることはできません。白紙でものを見る、ということはやさしいことではありません。でも、白紙で見ようとすると、いろいろなものが見えます。- 意欲ー胸からあふれるもとを
書くことのでる材料は、巷にあふれているのです。電車のなかの光景にもあります。なにげない雑談の中にもそれはあります。書こうとすることによって、より明確な形をおびてくる。あるいは書いているうちに、より明確な形をとり、思いが整い、言葉が整ってくる。- 感覚ー感じたことの表現
一つは、 感覚を磨くことであり、もう一つは感覚の表現を磨くことです。2. (平均遊具品)の巻(文章の基本)
- 平明(1)ーわかりやすさの秘密
福沢諭吉の文章の特徴をひとくちでいえば、「平明」ということでしょう。わかいやすいからこそ万人に読まれ、筆が力になった。- 平明(2)ー読む人の側に立つ
わかってもらうためには、読む人の側に立ってみることです。しかしこれは簡単なことではありません。読む人側に立って自分の文章を見る想像力は、大変なエネルギーを要することなのです。- 均衡(1)ー文章の後ろ姿
自分の文章の後ろ姿を見ることの上手な人の文章には、落ち着きがあります。- 均衡(2)ー社会の後ろ姿
自分がなにか書こうとする。観察の仕方、ものの見方に均衡を欠くので部分があるのではないか、単純の大勢に従うことなく、さまざまな見方で吟味してみる。- 遊びー異質なものとの出あい
「遊ぶ」ということは異質なものとの出あいを楽しむことです。少なくとも、あそぶことの一面には、そういう部分があるはずです。文章を書くうえでも、この異質なものとの出あいをたのしむ心ではないでしょうか。- 具体性ー細部へのこだわりを
具体性を大切にすることは、ものを見る力を鍛えることでもあり、それは文章の質に反映します。同時に「具」抜き文章のウソを見破る力を身につけます。- 品格ーものごとを見つめるゆとり
文章の品格というものは、技術を超えたところにあります。文章技術はむろん大切ですが、人間全体の力が充実しないと「品格」という巨大なものをかつぐことはできないようです。3. (整正新選流)の巻きー表現の工夫
- 整えるー気をつけたい六つのこと
文の長さについて・漢字の割合について・カタカナ言葉について・体言止めについて・土地の言葉について・「 」について・- 正確ー終着駅のない旅
「正確な文章」の追求には終点はありません。- 新鮮ー避けたい紋切り型の表現
紋切り型、腐ったものを使わないですむ方法は、ことばの臭覚を鋭くすることです。いま使おうとすることば、気が利いているようで腐り始めていないか、と鼻をきかせる習慣を身につけることでしょう。- 選ぶー余計なものをそぎおとす
何を選び、何を削る。そこに結局、あなた自身のものの見方が現れます。- 流れー書き出しから結びまで
流れのいい文章を書くには、これと思う文章を選んで学ぶしかないでしょう。すらすらと読める、流れのいい文章を心にとめておいて、構成の秘密を盗みましょう。
福沢諭吉の文章が多く引用されています。読んだことがありません。読んで見ようと思っています。