文章術の本:竹内政明の『「編章手帳」の文章術』を読んで

「編集手帳」の文章術』:竹内政明著

41VUcbj5v7L._SL250_

編集手帳」の文章術

文章が下手なひとはそれなりに、上手なひとにカーンと響く文章技術論

新聞を開き、一面の見出しをちらっと見てから、まずコラムを読みます。ギュッと、それでフワッと詰められたお弁当箱のような文章を読むのが好きです。500字前後に起承転結がきちんと収まった文章、名文の達人たちの特殊技能でしょう。
著者は読売新聞の一面コラム『編集手帳』を10年以上執筆してきた竹内政明で、名文が生まれる文章術の秘密を明かしています。著者は“ジタバタと悪足掻きをするなかで身につけた泥くさい技術論”と言っています。さすがに本は簡潔で読みやすく、解説、引用が巧みです。文章のいろはを知らない私は、”めから鱗が落ちる”と、つい大声で語ってしまう文章技術論です。

第一章は、心を動かす文書を書くために、著者が自分に言い聞かせているルール「文章十戒」を紹介、説明しています。目次を引用紹介してます。 ( )内は私が抜き出した引用メモです。

「文章十戒」

 「第一戒」:「ダ」文を用いるなかれ

  • (私の書く「編集手帳」の文末「…だ」は登場しません。)

    「第二戒」:接続詞に頼るなかれ

  • (接続詩を用いて増築するのではなく、金箔を薄く延ばしていくような切れ目のない文章に心がけています。)

    「第三戒」:大声で語るなかれ

  • (劇作家の宇野信夫の言葉を引用して、”あるとき、自作の文章を読み返していると、「三年の歳月が流れた」という文章にゆきあたった。三年の月日は流れた——なぜ私は「3年たった」と書かなかったんだろう。)

    「第四戒」:第一感に従うなかれ

  • (「プロの棋士は第一感を捨てるものです」真っ先に浮かんだ手は捨てるということです。自分が容易に思いつく差しては、相手だって気づいているはずです。コラム書きの発想に似ているな、と思いました。)

    「第五戒」:敬称を侮るなかれ

  • (敬称とはむずかしいものです。「さん」付けが礼儀にかない、呼び捨てが無礼かといえば、そうとも限りません)

    「第六戒」:刑事コジャックになるなかれ

  • (テレビドラマ『刑事コジャック』、『刑事コロンボ』の両方のアフレコを担当した額田やえ子さんのエッセイを引用して、
    Come on! —–コジャック「早くこい)、コロンボ(こっち、こっち)
    Let me see that.—-コジャック(見せてみな)、コロンボ(ちょっと、拝見)
    新聞の社説がコジャック型なら、一面コラムはころんぼ型でしょう。)

    「第七戒」:感情を全開するなかれ

  • (相手を非難するとき、自分が正しいと信じていればいるほど、ついつい舌峰は鋭くなってしまいます。相手の顔に指を突きつけ、口角に泡を浮かべて罵ることになります。)

    「第八戒」:「変換」を怠るなかれ

  • (コラム書きも言葉選びに気をつかいます。「考えすぎ」を「思い過ごし」と言い換えて、効果を比べてみる。「ミスを「失策」、「落度」、「手抜かり」と順番に入れ換えて、文脈にふさわしい言葉を選ぶ。)

    「第九戒」:遊びどころを怠るなかれ

  • (テーマをぴったりの詩句、文句をみつけることはコラム書きにとって腕の見せどころであり、楽しい遊びでもあります。多くの人命を奪った災害に遊びを持ち込む余地がありません。)

    「第十戒」:罪ある身を忘れるなかれ

  • (日本経済新聞社の文化欄で盲学校の先生が寄稿した文章で、生徒の短歌が紹介されていました。
    分からない色の黄色は分からない黄色い声は弾んでいるね
    「青い大空」と書きます。「一面の銀世界」と書きます。「木々の緑」と書きます。おそらくそのたびに、点字の読者を戸惑わせてきたのだと、短歌に接してはじめ気づきました。)

まだ本の1/4です。これからが面白くなります。お勧め一冊です。
名文家の文章術は読書にも役立ちます。違う角度から文章を楽しむことができます。

編集手帳」の文章術